衛生証明書は「提出しない」選択肢もある?実務で失敗しない判断基準を解説

ケース別・商品別の注意点

食品を輸入していると、こんな経験はないでしょうか。

  • 「衛生証明書は取得しているけど、毎回提出はしていない」
  • 「前回は問題なかったのに、今回は急に提出を求められた」
  • 「工場に頼むとコストも手間もかかるので、正直できれば取りたくない」

特に、水産加工品や惣菜系冷凍食品を扱う輸入者にとって、
衛生証明書(Health Certificate)を“出す・出さない”の判断は悩みどころです。

本記事では、

  • 衛生証明書の正しい位置づけ
  • 「取得しているが提出しない」実務がなぜ成立するのか
  • 提出しなくてよいケース/危険なケースの線引き

を、輸入現場目線で具体的に解説します。


食品輸入における「衛生証明書」とは何か

衛生証明書の基本的な役割

衛生証明書(Health Certificate)とは、

輸出国政府(またはその権限機関)が、
当該食品が人の食用に適することを証明する書類

です。

日本では主に、食品衛生法に基づく輸入届出の審査資料として扱われます。

👉 重要なのは、
「必ず提出しなければならない書類」ではない品目が多い
という点です。


よくある誤解|衛生証明書=常に必須?

初心者が誤解しやすいポイントとして、

  • ❌ 衛生証明書がなければ輸入できない
  • ❌ 毎回提出しないと違反になる

と思われがちですが、実務上はそうではありません。

実際には、

  • 提出義務が明示されている品目
  • 求められた場合に提出できればよい品目

が存在します。

食品輸入に必要な手続きや検疫に関する記事はこちら
→ 食品輸入の必要手続きと検疫の流れを徹底解説

食品輸入全体の流れを理解したい方はこちらの記事をご参照下さい
食品輸入の流れをゼロから理解!申告・関税・NACCSまで[図解]


「取得しているが提出しない」実務が存在する理由

理由①|提出義務がないケースが多い

多くの加工食品では、

  • 法令や通知で「提出必須」とされていない
  • 検疫所から提出指示が出ていない

場合、提出せずに届出が受理されることがあります。

この場合、

「提出しなくても許可になっている」
= 制度上問題ない運用

となります。


理由②|検疫所はリスクベースで審査している

検疫所は、すべての輸入食品を同じ厳しさで見ているわけではありません。

以下のような条件では、審査が比較的簡略化されます。

  • 継続輸入でトラブル履歴がない
  • 加熱済み・加工度が高い食品
  • 過去に同様の届出実績が多数ある

この場合、
「持っているならOK、今は提出不要」
という扱いになることが実務上よくあります。


理由③|提出すると逆に指摘が増えることがある

現場でよくあるのがこのパターンです。

  • 文言が日本側要件と微妙に違う
  • 表現修正や追加説明を求められる
  • 翻訳提出が必要になる

結果として、

「出さなければスムーズだったのに…」

となるため、
提出を求められていない限り、あえて出さない判断がされます。


具体例|一口イカフライの場合の考え方

なぜ一口イカフライは判断が分かれるのか

一口イカフライは、

  • 水産物(イカ)由来
  • 動物性原料を含む
  • 加工食品(冷凍・加熱済 or 未加熱)

という性質から、
**衛生証明書が「要求される可能性がある品目」**に分類されます。


衛生証明書の代替としてよく使われる資料

実務では、以下のような資料で指摘を回避できるケースがあります。

  • イカ原料の漁獲証明書
  • 工場での衛生検査結果(微生物検査等)
  • 放射線不使用証明書

これらは、

  • 原料のトレーサビリティ
  • 製造環境の衛生管理
  • 日本独自の懸念点

をカバーしており、
検疫所が追加提出を求めない判断につながることがあります。

ただし、
👉 政府発行の「最終保証」ではない点は理解が必要です。

工場側が衛生証明書を出したがらない本当の理由

手数料・手間・責任が一度に発生するから

輸出国政府が発行する衛生証明書は、
「書類を1枚出すだけ」では終わりません。

実際の工場側の負担は、次のように積み重なります。

  • ロットごとの発行手数料
  • 政府検査官への申請・日程調整
  • 製造ロット確定後の立会・確認対応
  • 書類発行までの待ち時間(出荷遅延リスク)

国や制度によっては、
1ロットあたり数千円〜数万円相当のコストになることもあり、
単価の低い水産加工品では利益を圧迫する要因になります。

さらに、

「証明書を取る=政府名義で安全性を保証する」

という意味合いを持つため、
工場・所管官庁ともに慎重になりがちなのが実情です。

その結果、

  • 法的に必須でない
  • 過去に提出を求められていない

のであれば、
**「できれば発行したくない」**という判断になりやすいのです。

政府名義で「安全」を保証することへの心理的抵抗

衛生証明書には多くの場合、

Fit for human consumption
(人の食用に適する)

という文言が入ります。

これは、
トラブル時に政府名義の責任が残ることを意味します。

そのため、

  • 工場
  • 所管官庁

双方ともに、
**「必要でなければ出したくない」**という本音を持っています。


提出しなくてよいケース/危険なケースの線引き

比較的安全なケース

以下の条件が重なるほど、
提出しなくても問題になりにくい傾向があります。

  • 継続輸入・実績あり
  • 加熱済み加工食品
  • トラブル・違反履歴なし
  • 補完資料(漁獲証明、検査結果等)を保有

👉 ただし、「取得していない」状態は別です。


提出しないと危険なケース

逆に、以下の場合は要注意です。

  • 初回輸入
  • 新規国・新規工場
  • モニタリング検査対象
  • 動物検疫・植物検疫と関係する品目

この場合、
輸出時に取得していないと、後から出せないため、
差し止めや積み戻しリスクが現実的に発生します。

こちらの記事で命令検査について解説しています
食品輸入で命令検査になるケースと回避策|止まりやすい食品と実務チェックポイント


実務で失敗しないための現実的な運用

実務上、最もバランスが取れているのは以下の考え方です。

  • 輸出時に衛生証明書は取得する
  • 原則は提出しない
  • 求められたら即提出できる体制を取る

これにより、

  • 無駄な指摘や手戻りを防ぎ
  • 万一の際のリスクも最小化

できます。


まとめ|衛生証明書は「不要」ではなく「未提出」という発想で

  • 衛生証明書は常に提出必須ではない
  • 「取得しているが提出しない」運用は制度上も実務上も一般的
  • ただし、取得していない状態は高リスク
  • 品目・国・実績によって判断は変わるため、
    毎回条件を整理することが重要

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参考資料

  1. 厚生労働省|輸入食品監視指導計画
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169430.html
  2. 厚生労働省|食品等輸入届出制度
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169108.html
  3. 農林水産省|水産物の輸出入に関する情報
    https://www.maff.go.jp/j/yusyutu_kokusai/index.html
  4. 日本貿易振興機構(JETRO)|食品輸入の基礎知識
    https://www.jetro.go.jp/theme/import.html